「バイクの鍵」を収納庫に入れエンジンがかけられず立ち往生している女性と出会った

05その頃、自宅と夫が借りているアパートがあり往復していました。それは冬で、もう、夕方に近い時間でした。まだ、薄暗くはなってはいなかったのですが、それほど人も頻繁に通らない道で、若い女性がバイクの側に呆然と立っていました。何のために、この女性はこんな所に立っているのだろうと私は不審に思い、ふと女性の顔を見ました。泣きそうな何か言いたげな表情をしていました。何ともその状態が妙だったので、私は思わず「どうかしましたか?」と声をかけました。すると、女性は「エンジンがかけられないんです。」と言うので、「ガソリンが切れたの?」と私。女性は答えました。「いえ、あの、収納ボックスにバイクの鍵も財布もみんな入れてしまい、取り出せなくなってしまって…。」と。

私は状況を悟りました。女性はエンジンをかけられず、また、バイクも動かせず、お財布もみんな入れてしまったため誰とも連絡を取れないし、どうしていいのか分からないまま放心していたという訳なのです。私の頭は、すばやく回転しました。交番までは少し距離がありました。それは20年も前のことですから、携帯電話もない頃のことです。誰かに連絡を取って何とかしてもらうしかないでしょう。私は持っていたテレフォンカードをその女性に渡し、「これで誰かに連絡を取ってきたらいいわ。」と言いました。幸い、近くに公衆電話がありました。 「私がここに立って、あなたのバイクは見張ってあげるわ。」と私は言いました。女性は、「すみません。」と私に言い、電話をして戻ってくると、少し明るい声で私に連絡が取れた旨伝えました。私も急ぎの用事もあったので、その場を失礼をしましたが、見届けた上げたほうがよかっただろうかと後で思いました。いずれにしても、「バイクの鍵」は、いつでもポシェットなりポケットなり身近なところから離さないようにしましょうという教訓でした。